暇だから、シャンプーをドラマチックに表現してみた。

彼女は柔らかいクッションの備え付けられた、最新式のシャンプー台に腰掛けた。

僕は慣れた手つきで彼女の首に真っ白なタオルを巻き、その上から防水のクロスを付ける。首が苦しくないように、指一本分の隙間をもたせながら。

足元のペダルを踏むと、ゆっくりと椅子が床と水平になっていく。
これなら長時間同じ体勢でも辛くなさそうだ。

顔にガーゼをかける。これで1枚壁が出来る。
目が合うことも、互いにとって見られたくない角度で顔を眺められることもない。
たった一枚の薄い布だが、二人にとっては不可欠なものだった。

お湯の温度を手首で確かめる。手のひらの感覚は鈍感だと知ったのはこの仕事を始めてからだ。
僕は彼女の頭にお湯を当てて、
「お湯加減は大丈夫ですか?」
何千回たずねたか分からないこの質問を、また繰り返した。
その時僕は少し自信がなさそうに聞く。
その方が、正直に答えてくれる気がするからだ。

シャンプー台の構造上、一番洗いにくいのは間違いなくえり足の部分だ。
そこを洗うため、首を持ち上げる時彼女は少し力を入れる。
気を使ってくれているのか?頭を重いと思われたくない乙女心なのか?女性の気持ちはまだまだ分からない。男性でも力を入れてくれる人はいるから、多分前者だろうか。

ただ1つ言えるのは、この頭を持ち上げてくれている間は、彼女は意識がハッキリしている。
そう、眠たくないということ。
僕はこのフラットになった台が元に戻るまでに、彼女の頭から力が抜ける事が僕の目標だと心に定めた。

シャンプーを手に取り、彼女の頭の上で泡立てる。空気と水をたっぷり含ませながら。
一見、頭皮を掻きむしっているようなこの行為が、この泡によって”マッサージ”という立派なサービスに生まれ変わるんだから不思議なものだ。

準備が整えば、頭の上をリズムよく駆け巡る。まるでフィギュアスケートのマオ・アサダの様に。
一通り終わるとまた尋ねた。
「かゆいところはないですか?」
実際聞いてみても1年のうちに1〜2回あるかないか。必要ない質問なのかもしれない。
それでも物事の終わりを告げるには、号令があったほうがよいのだろうか?
、、分からない。1つだけ分かっているのは、もう少し洗って欲しい所の事をかゆい所と、相手の感情に沿って尋ねるこの質問は、”粋”だということだ。

泡を一通り流し、トリートメントで手触りを整えたら、タオルで水気を取る。

そしてまた電動の椅子が起き上がる時、
まだ起きたくない。
そんな雰囲気が目の前の女性から感じられた時、
10分少々のこの行いが、完璧に報われる瞬間になる。
それは雑に言えば”ただ人の頭を洗う”という、一見単純なこの仕事に真剣に向かい合った僕だけが見える、爽やかな景色だった。

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美容師歴13年。現在Lani代官山にてマンツーマンでお客様と向き合っています。 オーダーメイドな縮毛矯正が得意です。 クセ毛、直毛、多毛、傷みやすい髪など、 髪に悩みのある方に特に支持を頂いています。 ショートボブのカットもおまかせください。